経営者の一番の困りごとは、自社の組織課題が分かり難いこと
経営者は毎日、「組織が機能するにはどうすべきか」、「組織連携するにはどうすべきか」といった組織マネジメントの問題を感じているが、いざ改善しようとすると情報が不足し、また問題(狭義の問題と課題)が複合化しているために有効な施策が打ち難いであろう。
そこで必要なことは、正しい情報を取り込んで団子になっている広義の問題(狭義の問題、課題)をばらす必要がある。その作業を「課題ばらし」という。
今後数回に分けて、”経営者が一番困っている案件“の「組織マネジメントのための課題ばらし」と「課題解決のための施策」を紹介する。
今回は、「経営者の課題ばらし」のフレームワークとその狙いを説明する。次回から「経営者の課題ばらし」を一つずつ具体的に解説する。
1.経営者の組織課題をばらしたフレームワークはこうだ
ここで示す内容は、かつて勤務していた(株)村田製作所で大型品質トラブルを起こしたことがきっかけで「経営のための品質管理」を研究した成果――著書「経営のための品質管理心得帳」――である。ここまで「課題ばらし」をすれば、組織課題は十分であろう。とはいえ、トラブルを体験していない人には何のことやら分かり難いので、説明しなければならない。皆さんへの伝承のために行うのだ。
これから説明する上で大事なことが二つある。
一つは、「経営者の課題をばらし」としているが、内容は組織人全員に直接間接的に関わることである。また皆が関わらねば経営者の課題解決はなし得ないので、下位層と管理職層も理解すること。
もう一つは、「経営者の課題ばらし」を進める上で重要な要素がある。それは、組織課題の多くは、人間の性(さが)が起こす事象なので、一緒に働く人々の考え方に焦点を合わせる必要がある。
「経営者の課題ばらし」フレームワーク
「経営者の課題ばらし」フレームワーク(全体像)を添付PDF(詳細はこちら)に示す。その大分類3点を次に示す。それぞれの意味は2項以降で説明する。
2.全ての課題は経営者の責任に帰着する
組織問題の本質を追求していくと、行きつくところが組織マネジメントしている人の課題(狭義の問題と課題)になる。そこは経営者(経営者層)である。
もう少し平たく言うと、経営者や経営者層は事業体の最高責任者であり、すべての責任と権限を有している。仮に下位層が間違った行為をしたとしても、それは権限を委譲した結果であり、責任の所在は依然として経営者層にある。
分かり易い事例として、顧客クレームを紹介する。クレーム規模が大きい程、調査・分析・是正措置に多額の費用が必要になる。その費用の決済は経営者や経営層になる。もしタイムリーに資源が投下されなければ現場は動けず、顧客の信用を失うことになる。
上位職者にとり面倒なクレーム対応といえども大事な経営判断を必要とする案件である。屋台骨を揺るがすほどのクレーム規模になると、戦略的位置づけになり、経営者抜きにして解決はあり得ない。
もう一つ、ヒューマンエラーの事例を説明する。ヒューマンエラーを作業者のミスとして処理しがちであるが、正しく振り返ると「人の配員」「人の教育訓練」「作業標準」「労働環境」などの問題が見えてくる。これらの要素は、作業者個人の問題に帰すことはなく、組織マネジメントの在り方が問われる。つまり、組織を動かすための「仕組み」や人々の心に影響を及ぼす「組織風土」がどうであったかが問われるので、経営者もしくは経営層の責任になる。
このように事例を示すと分かるが、普段の経営活動においてお金と直結しない案件に経営者や経営層が自分の課題として認識することは難しい。
多くの経営者や経営者層が困っている問題の本質はこういうことである。経営者や経営者層が自社(自組織)の課題を認識できるならば、全社(組織全体)の課題となり、その課題を目標管理(方針展開)すれば各層で解決が進みやすくなる。そうすることで組織の人々にとり働きやすい場ができる。それが組織マネジメントのありたい姿である。
問題の本質を追求する「経営者の課題ばらし」あるいは「経営者層の課題ばらし」は重要であり、年に一度の頻度で行うことを勧めする。
3.経営者の3つの課題とは?
1)働くみんなの心を束ねる「経営理念」
「経営理念」は、この組織が「何のために、誰と、どのように、どこへ向かう」のかが示されるものである。どのようには、手段であり一般に「行動指針」である。※経営理念に含まれないケースは行動指針として示される。
「経営の目的」と「行動指針」を組織メンバー全員で共有化されることで、皆が向く方向が決まる。一般にいわれる統制ではないが、働く人々の心が同じ方向に向かう点で将来組織力を高める可能性がある。分かり易い事例が高校野球である。活動の目的と手段が極めて明確なので、皆の心を合わせやすい。経営は長期戦なので、皆の心を長期で維持するために別の工夫も必要となる。
経営に苦労している組織体の多くは「自分たちは、どうやって、どこへ向かうのか」が希薄なように感じられる。つまり、「経営理念」が存在しないようにさえ感じるのだ。活動の目的が明確でないと、組織に所属する人々の活動は鈍くなるのは当然のことである。また、普段意識しないが、窮地に立たされた時に威力を発揮するのが「経営理念(行動指針)」である。
この項では、「経営理念」がなぜ必要か、またその理解がなぜ必要かを解説していく。
2)経営効率を高める考え方がある
事業経営は、投資効率を高めなければ利潤を得ることができず、いずれ経営に行き詰まる。また、働く人は改善し成長できる環境でなければ労働意欲が湧かず、いずれ組織を辞めていく。人材が育ちにくい、馬車馬(わき目もせずに馬車を引く馬)作業に重きを置く組織の経営は行き詰まる。
そうならないように1920年頃に米国の先人が経営効率を高める経営の仕方を考案している(科学的管理法、品質管理=経営マネジメント、方針管理)。
多くの企業人にとり、考案された経営手法(組織、仕組み、連携、標準、保全、生産管理、生産技術、‥)は優れモノであるが、使う際の考え方を誤ると効果は激減する。形骸化すると下位層は「やっぱりな!」となり経営効率が低下することさえ起こるのだ。経営手法は諸刃の剣なので、しっかりした考え方の下で用いなければならない。
ここの主な課題は、「ヒエラルキー構造」「含み損(トラブル、クレーム)」「人材育成」「目標管理(方針管理)」「現場視点」の5点である。
3)効果的な組織運営法がある
三つ目は、「効果的な組織運営」である。いよいよ具体的な手法のことである。ここでは「ヒエラルキー構造」「信頼関係」「働ける『場』」「運営仕組み(手法)」の4点について解説する。ここでも考え方に重きを置き手法を伝えていく。
4.経営に、なぜ「考え方」が重要か?
世の中に「経営」「品質管理」「生産性」「…」などの経営に有用な書籍が沢山あるが、多くは考え方を飛ばしたツールばかりである。確かに有効なツールであるが、採用しても組織に定着していないケースが多く見受けられる。
その理由であるが、この20年間に起こった「官民学が関わった社会問題」を見れば容易に理解できるであろう。それらの問題の本質は、1項で示した課題が解決していないためである。しかも、問題は組織内でずいぶん前に分かっていた案件が放置され、長い時間をかけて作られた組織文化が破綻したに過ぎない。
事業経営は人が行い、次世代の人に受け渡す作業である。多様な人達が組織で気持ちよく働く上で大切な考え方がしっかりしていないと継続はできないのだ。単なる仕組みは、一時的に有効であっても、継続させる考え方がないと直ぐに形骸化してしまう。形骸化する事象を放っておくと、いずれ組織風土がおかしくなることさえ起こる。だから、手法は「それができた背景」や「有効に用いる考え方」が必要である。
考え方を重んじる組織体が、その組織風土で作り上げた手法は「秘伝」になろう。
~コラム~
1920年頃米国で「品質マネジメント」を考案したジョセフ・M・ジュラン博士は、次のように品質管理(経営マネジメント)運動を行っていたようである。
『多くの品質管理運動家は、分かり易く効果的な「統計手法」に注力するが、ジュランは人間が介在することで起こる組織問題をマネジメントすることが大事だと説いている。これがジュランの終生の戦いでもあったようだ』
具体的な解説は、著書「経営のための品質管理心得帳」山岡修、サンライズ社発行の第1章1節「先人が築いた品質管理」に示す。