32 組織マネジメント「経営者の課題ばらし」
~3-4-2「トップチームづくり」編~

経営者の困りごと、「トップの悲劇」が起こっている

 かつて勤務していた(株)村田製作所で大型品質トラブルを起こしたことがきっかけで「経営のための品質管理」を研究したのだが、そこで見えてきたことは階層間連携の悪さが原因で多大な経営ロス(経営効率の低下)を引き起こしていることである。その理由であるが、最下層は現場情報を包み隠さず上げるが、途中の階層で浄化され経営者には30%ほどしか届かないからである。その30%で経営者は資源投下の決断をしなくてはならないことがある。これが「経営者の悲劇」である。同時に情報を上げた最下層にとっては、経営者に届かないという「ボトムの悲劇」が起こる。この現象をよく調べてみると、私が勤務していた企業にとどまらず、他社でも、官公庁でも同様のことが常習的に起きていることが分かった。

 この状況は組織マネジメントにとって好ましくない、この改善には直接的にタテ(現場層-管理職層-経営者の階層間)をつなぐ階層間連携(タテ連携)しかないと考えた。 

 

1.経営者が自ら「経営者の課題ばらし」を行った事例を紹介する

 今回は、(株)村田製作所在職中の2010年に、一担当者が現場のネガティブ情報を経営者に伝える場を設け、「経営者の課題ばらし」及び「経営者層のチームづくり(経営者層のヨコ連携と階層間タテ連携)」を行った事例を紹介する。

 なおこの活動は、株式会社FMICCEO大岩和夫氏の協力を得ている。

 

2.「経営者の課題晴らし」活動の事例

1)経営者に組織連携企画を説明する

 活動名を「トップチームビルディング(トップチームづくり)」と称し、現場担当者が現場のネガティブ情報を経営者層に報告する場を作り、①経営者層が現場を正しく理解すること、②階層間(最下層-管理職層-経営者層)タテの連携を図ること、③トップ層の連携を目的に企画した。

 次に示す2)~6)項を社長と副社長に説明して合意を得た。なお、当時の村田製作所は、組織風土改革に取り組んでおり、その一環として賛同いただけたと思う。

 活動を開始したのは、それから4か月後である。

 

2)トップチームメンバー

   社長チーム :社長と役付き役員3名 計4

   副社長チーム:副社長と役付き役員3名 計4

 

3)トップチームと活動の主旨を共有化する

 トップチームの皆さんには、次の通り「着手した背景」と「推進のお願い」を示した。型くるしい形式的なルールは設けなかった。

 

4)トップ層へ説明する「現場のネガティブ情報」の選択

 テーマにしたい問題事案(「ワーストトラブル」)は、多くの部門に存在するので抽出は左程難しくない。

 しかし、こういうやり方は一般的ではないこともあり、現場の方に報告を頼むと一度は嫌がられる。でも、トップチームビルの主旨を説明すると誰もが報告に同意してくれる。

 次は、報告内容であるが、大事なことは①上長の合意を得ること、②事実関係で語ること、③好ましくない判断をした際の心理状態を語ることの三点である。

 問題は、現場報告者よりもその上長である。これは、上長がストレスを受ける行為なので、その責任は一切問わないことを経営者層と確約を取り付ける必要がある。当社のケースは、経営者層がその前提で取り組まれていることもあり、楽に進めることができた。

 

5)チームビル活動のレイアウトイメージ

 同じ部屋に約2mの間隔を空け社長チームと副社長チームの机を設けた。お互いの声が聞こえる状態である。
 現場の語り手はトップ層のテーブルから約1.5m離れた場所で語ってもらった。トップチームのテーブルには模造紙、付箋紙、サインペンのみが置かれている。

6)討議の流れと役割

 

7) 討議イメージ

 

8)トップチームづくり」活動の内容

① 話者の生々しい語り

 最初に、現場の話者(語り部)が単刀直入に過去の「ワーストトラブル事件」を披露した。普段の経営執行会議では、決して語られることのない、また聞くことができない生々しい文言が飛び交った。発表者は事実に基づくので、理路整然と語ることができたように思う。この現象は端でみている我々事務局の方の驚きであった。

 経営者チームは、生々しい出来事を経営者として真摯に受け止め、不明確な点を納得するまで質問した。「ワーストトラブル事件」の顛末を事実に基づいて検証していく作業である。

 こういった検証作業は精神衛生的にも好ましく、人間が素直になれる環境でもあるように感じた(話者も経営者も)。つまり、語り手は、雑念を持たずに本音で語ることができるので楽である。本音の語りは、聞き手の経営者も同じ解釈ができるようだ。特に本音の語りは、この場に存在する人々の信頼関係を作るようである。

② 課題ばらし作業(KFT

 それぞれのトップチームは、議論を通じてK(気づき、関心事、困りごと)を付箋紙に記載し、F(振り返り、意味の明確化)して問題の本質を明確化していく。最後は、T(次にやること)、つまり「経営者の課題をばらし」として「問題解決型テーマ」と「課題解決型テーマ」を策定した。

 トップチームビル活動は、8事例(2件/月)を4か月に渡り行われた。

 

9)「トップチームづくり」活動のアウトプット

  最後に社員を束ねる手段として、企業ビジョンである「グランドデザイン」を描かれた。(省略)

 この活動内容は、2012春社員の皆さんに公表した。

 

10)事務局の気づき

 

 

ヒエラルキー構造の新たな課題

 誰もが普段意識せずに組織構造(ヒエラルキー構造)を用いているが、この便利な構造を成り行きで用いると、組織員はどうしても軍隊式の統制力を受け心理的に心の自由を失わせる“呪縛”を受けやすくなる。

 今回の討議は、この“呪縛”を全く感じさせない「場」を作ることができたと思う。普段こういう「場」をどのように作るか、新たな課題である。

 

3.トップチームづくり活動の注意点

 企画推進する者は、少し時間をかけて企画を熟成させる必要がある。特に大事なことは、話者が堂々と3現主義に基づき語ることである。話者がボトム層であればほぼ問題なく語りつくす(これは断言できる)。ところがヒエラルキー構造が身に染みついている管理職層の場合、経営者や経営者層を前にすると心理的な自由を奪われ語れなくなる傾向がある。面白い程に人が変わってしまうのである。そうなると、当初の問題は消え失せ、ほとんど世間話で終ってしまう。

 したがって、発表者(話者)とは事前に何度も打ち合わせを重ねる必要がある。あるいは、最初からミドル層は出さないのも選択肢の一つである。また時には、当初目的からずれるが、管理職層のメンタリティーを知る観点から意図して行うのも良いと考える。

 うまく進めるポイントは、くり返しになるが、「3現主義に基づき語ること」「本音で心のブレについても語ること」である。このことでボトム層とトップマネジメント層の信頼関係が出来上がり、トップ層も客観的思考ができるようになる。これが人間本来の姿であろう。

 

4.さいごに

 私の著書「経営のための品質管理心得帳」は、経営者が一番困っていることを「課題ばらし」したものである。参考にしていただけると幸いです。