品質管理の考案者ジョセフ・M・ジュラン博士が提唱する品質マネジメントの普遍的手段は「現状維持(今のために)」と「現状打破(将来のために)」である。つまり、持続可能な成長には、今のことをする人と将来のことをする人という風に、多彩な人々の能力が必要になるということである。
かつての高度経済下におけるキャッチアップビジネスは、限定的能力でも経営が可能であった。しかし、現在の成熟した経済下においては考えが及ばないほど色んな能力が必要になるのだ。私の『経営のための品質管理心得帳』でも、そのことを幅広く解説してある。
今日は、2020年2月20日の朝日新聞オピニオン&フォーラムで豊橋技術科学大学岡田美智男教授が、故野村克也氏(2020年2月没)の“人材の活かし方”について分かり易く解説されていたので、次に紹介する。
野村野球の特徴の一つに、「あり合わせで強さ導く」手法があるという。
その背景は、貧乏球団には一線級のスターを雇い入れる財力はない。それで、他球団で戦力外になったベテランを新しい起用方法で再起させ、埋もれている選手の力を的確な助言で導き出し、必要な場面でそれらの選手を使うという。
岡田教授によると、「もともと人間の組織とは、“あり合わせ”の集合体ともいえる。それぞれの長所・短所を持ったデコボコとした人ばかりである。リーダーはそれをブリコラージュbricolageすべきなのに、個人に全部の能力を高めよと押し付けがちである。その結果、無限の豊かな解釈が可能であるべき“能力”を、数多くの評価項目に書き込まれ、ただの数値に変換し、平均化して比べてしまう」と解説されている。※プリコラージュ:寄せ集め細工。明確な概念を用いる近代的思想とは異なる、人類に普遍的な思想を表す。(広辞苑)
加えて、「今の世の中には、“生産性が低い”“役に立たない”などの言葉で、人間の能力を簡単に見切ろうとする風潮があるのではないか。野村流“弱者の戦法”には、人間の能力をもっとおおらかに理解するためのヒントが詰まっていると思う」と指摘されている。
極めて分かり易い解説である。
私が現役の頃、多くの責任者から聞こえてきたのが、「人がいない」であった。そのことを仕事ができない言い訳にもしてきたのだ。周りの人達も納得していた節がある。とかく誰もがテーマに適した人材を望んだものである。
高度経済成長期のキャッチアップビジネスでは、一定の答えがあったので、IQの高い人が情報をかき集め早く答えを導き出していた。そのすごさで、周りの人達は“彼は何でもできる”と思ったものである。
現代の成熟した経済下においては、キャッチアップビジネスは限られており、多様な人々による発想を必要とする時代である。人がいないと決めつけるのではなく、あなたの周りにいる多様な人達を使いこなす工夫をすべきである。それを実現するには、先ず人々に働ける“場”を提供し能力を顕在化させることである。そうすることで必要な人材が発掘される確率が高まるからである。不足する能力は、その後の活動で補強すればよい。また、働く人々のモチベーションが高まり、組織経営がSDGsに向かうことができる。社員も経営者もハッピーになれる。
<朝日新聞記事>
13版S 2020年2月20日(木)オピニオン&フォーラム
岡田美智男氏(豊橋技術科学大学教授)
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