Blog.17 なぜ「ひぼう中傷」するのか(前編)

 社会、組織は多様な人材で構成されている。多様な人だから色んなことができる、時として嫌な問題を引き起こすこともある。人の多様性を理解せぬままに、人材を成り行きで用いるととんでもなく大きなトラブルを引き起こすことがある。
 今日は、人の多様性を知る目的で、どこでもあり得る「ひぼう中傷」について、起こる理由を二人の専門家の知見を基に考えていく。前編は社会人類学の研究者中根千枝氏の「タテ社会の人間関係単一社会の理論」、後編は脳科学者の中野信子氏の「人はいじめをやめられない」である。
 後編の最後に「ひぼう中傷」を止める方策を考えていく。
<目次>
 1.新型コロナ感染禍での「ひぼう中傷」
2.「日本人のひぼう中傷」はなぜ起こるのか?
2-1.社会人類学研究者中根千枝氏の書籍より

 

1.新型コロナ感染禍での「ひぼう中傷」
 新型コロナウィルス感染問題において見受けられたことがある。我が東近江市で感染者が出た時、知り得た人がLINEで一斉に「どういう人が」「いつ」「どこで」と情報を流す。最初に流す者は親切に「あなただけに知らせる」風に伝えているのであろうが、感染した当事者にしたら、後々とんでもない迷惑を被ることになる。
 昨年、所属する自治会で、人権啓発活動の一環として「人権啓発アンケート」を行った。私がその事務局を担っていたので、アンケートを通じて自治会員の気持ちを掌握することができた。皆さんの困りごとの多くは、何かあると直ぐに人ごとに関心を持つ。そして、近所の者同士でこそこそと語り、広げていく。当事者は精神的苦痛を強いられ困り果てるというものである。
 その後の調べで、日本人にひぼう中傷する人が多いことが分かった。2項で紹介する著書は日本人の独特の文化や人間のメンタリティーを知る上で非常に参考になるので、精読されることをお勧めする。
 
2.「日本人のひぼう中傷」はなぜ起こるのか?
 日本人が「ひぼう中傷」する訳を推し量る上で、社会人類学研究者の中根千枝氏と脳科学者の中野信子氏の書籍が分かり易かったので参考にしていく。
2-1.社会人類学研究者中根千枝氏の書籍より
 かつて、タテ社会を研究する中で社会人類学の研究者中根千枝氏の「タテ社会の人間関係単一社会の理論」講談社現代新書20136122刷発行を精読したこと がある。それは、日本という単一民族のムラ社会が作り出している独特の文化についての研究成果である。その中から「ひぼう中傷」を起こしやすい理由の一つである「ムラ社会文化」について3点紹介する。
 1)ムラ社会は、世間から閉ざされた農村の生き残り策(江戸時代)であり、単一民族がうまく運営する策
  (鎖国)である。
 2)農村の孤立をまとめる手段が結束であり束縛である。村八分は生き残りの策でもある(掟)。
  3)集団意識は「場(家、村、職場、会社)」に置かれており、「場」を強調する枠単位(家、一族郎党)
   の社会集団は、「伝統的な道徳的正当性」と「構造的妥協性(誰もが我慢)」に支えられている。枠
   (家、一族郎党)を強化するために、「一体感を持たせる行動」と「情的に結び付けること(絶えざる
   人間接触)」で社会安定性が得られる。
 
 ムラが生き残る手段として、長い年月の末に出来上がった仕組みであり、し っかり伝承されているのだ。現代社会の今もなお継承されている。
  私自身、定年退職後に初めて滋賀県や地域の活動に参加して、民主主義的で ない不思議なやり方に困惑している。皆さんもそうであろう。
 少し「ひぼう中傷」に絞って整理すると、
 ① 外部と閉ざされているので、視野が狭くなり関心ごとが身近な人ごとになる。
 ② 狭い社会で掟(おきて)という制約を受けて生きているので、一見良くないと思われることに対しては、
   排除しようという行為に出やすくなる。
   ※現在でも誰もが暗黙の掟(祖先から受け継いだこと)を意識している
 ③ 掟を守った者同士は情的に結び合い、絶えざる人間接触が起こり安定性を保たれる。守れなかった者は
   外されていく。
   ※中傷することで、仲間の結束力を高めている(いじめと同じ生き残り手段)。
 
 従って、「ひぼう中傷」をしないための要件は次に示すことになろう。
  一つ目、日本人は、いまだにかつてのムラ社会の呪縛を受けていると解釈できる。用がなくなったムラ社会文化を卒業すること(鎖国を止めること)。
 二つ目、他人のことよりも、もっと主体性を持った生き方――ドイツ人のように「自分のために生きる」「家族のために生きる」――の文化を醸成していく必要がある。
 このように書くのは簡単だが、長い年月を費やして培ってきた文化をどのように切り替えるかが重い課題といえる。日本人が真剣に取り組まねばならない事案だと言えるであろう。
 
 今日はここまでにしておく。
 次回(後編)は、脳科学者の中野信子氏の書籍より考えていく。            
                                   以上