今回は、イギリスの国家レベルの健康管理事例について考えてみたい。
<目次>
1.“健康管理”の事例2
2.イギリスの認知症事例から考察
3.参考
1.“健康管理”の事例2
イギリスにおける認知症の未然防止事例です。2014年にNHKスペシャルで知ったのだが「品質管理」を研究していた私にとり極めて新鮮であった。
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NHKスペシャル内容
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「NHKスペシャル 800万人時代「認知症を食い止める」~世界最前線~2014年で放映されていた内容である。以下に紹介する。
認知症は、症状により3つの段階に分けられている。
・段階a.症状なし:予備軍。誰にでもできる予防法がある。
・段階b.軽い物忘れ:発症の初期。
・段階c.記憶力低下:体の機能低下が起こり、介護が必要になる。
NHK放映での紹介は、症状のない段階a(予備軍)での未然防止取り組みである。
<活動内容>
英国では、予備軍が45歳以上の4人に1人、およそ800万人いる。放置すると社会問題になることから、症状を遅らせる取り組みを行っている。どういう人がなりやすいのかというと、生活習慣病との関わりも深く、糖尿病の人は2倍、喫煙者の人は3倍のリスクがあるという。また、高血糖・高血圧・肥満が症 状を早めやすく、運動・減塩・禁煙が症状を遅らせやすい(以上は日本でも周知された内容だと思う)。次が事例の紹介である。
イギリスのケンブリッジ大学が7,500人(65歳以上)の認知症患者の減少に成功している(1990年に比べ2010年は23%減少)。具体的には、
・生活習慣病の予防に取り組む医者にポイントが付く。場合によっては収入の15%を占める。
・脳と心の専門医の連携がとられている。患者にとっては非常に分かりやすい治療が行われる。
<本件の詳細>
詳細は、海外社会保障研究 Spring2015 No.190 特集:認知症対策の国際比較「英国の認知症国家戦略」西田淳志氏レポートを参照。
五つの政策方針をリストアップしておく。①早期診断と早期支援、②総合病院における認知症対応の改善、③介護施設における認知症対応の改善、④ケアラ―支援の強化、⑤抗精神病薬の低減。
2.イギリスの認知症事例から考察
イギリスの事例は、スウェーデンの未来予測レポートで使われる「バックキャスト(backcast)」手法――「将来のあるべき姿を想定し、それに基づいて、いま、何をしたらよいのかを判断する」――による活動とみてよいであろう。
先に、この「バックキャスト」手法について、書籍『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」(小沢徳太郎著、朝日新聞出版)』を引用し次に紹介する。
我々が高度経済成長期以降用いてきたフォアキャスト(forecast)は、「現在から将来を見る」または「長期ビジョンが不明確なまま現状を追認する」やり方であった。これまでの経済学のように「地球は無限」という前提に立って、現状を延長・拡大していく考え方である。
これに対して、バックキャスト(backcast)は、「将来から現在を見る」または「長期ビジョン年次から方向を検証しながら社会を変えていく」という意味で使う。
例えば、2030年とか2050年という長期ビジョン年次を考えた時に、其々の社会はどうあるべきかそれぞれの時点でどのような社会的・経済的・生態的条件が整っていれば、私たちは安心して生活できるかを、現在の時点で想定してみる手法である。
お分かりの通り、バックキャストは高度な課題ばらし(課題形成)である。課題ばらしがいかに重要か理解できる事例でもある。
イギリスの事例のように、ここまで国策でお膳立てすれば、足元の報酬を求める脳の働きを変えることができるということであろう。全員を変えるには無理としてもかなりの割合の人々を救済できるようだ。逆に、ここまだやらなければ、人々の思考――足元の報酬を求める性(さが)――を抑制し将来に備えることができないのかもしれない。
我が国は、成熟した経済社会に加え「地球温暖化問題」「自然災害(地震、台風)問題」「少子化・高齢化問題」「社会福祉問題(経済格差)」を抱えている。そろそろ「花の建設 涙の保全」を卒業し、思考をバックキャスト手法に切り替えて確かなビジョンの実現に挑まねばならないと考える。
先ずは、一人ひとりが「バックキャスト(backcast)」手法で課題形成(課題ばらし)に挑戦して欲しいものである。「バックキャスト(backcast)」手法が実現した暁には、「花の建設 涙の保全」は死語になるであろう。