Blog24.社会問題はなぜ起こるのか

 毎日のニュースに取ただされるのは、“上位職者の誤魔化し”であるとか“現場情報が経営に反映されないために起こる不具合”など経営トップ層が直接間接的にかかわる問題ばかりである。著名な大学を卒業し組織の重責を担う人たちが何故このような問題を引き起こすのか、抑制するにはどうすればよいかなどについて触れてみたい。
 <目次>
1.日々、官民学による沢山の社会問題が起こっている
2.問題の本質は何か
3.なぜこうなるのか
4.どうしたらよいのか

 

1.日々、官民学による沢山の社会問題が起こっている
 この20年間に起こった社会問題の代表事件を次に示す。
 ① JR北海道鉄道の保全検査データの改ざん
 ② 中央自動車道の笹子トンネル天井版崩落
 ③ JR宝塚線脱線事故
 ④ 大手企業T社の会計処理(粉飾みたいな)
 ⑤ K電力の贈賄
 紙面の都合上、事件の詳細をここで述べることは差し控える。知りたい方は、調査報告書が公開されているので確認していただきたい。
 
2.問題の本質は何か
 源流管理の考え方に基づき分析すると、次の通り単純な話であることが分かる。
①⇒ あらゆるインフラは時間経過とともに科学的・物理的変化をもたらす。その変化分を原点復帰してインフラの安全性を確保するのが保全である。その保全がデータ改ざんするということは自滅行為であり、経営破綻に陥っているといえる。JR北海道は国策路線であり、しかも、高度経済成長期の国策投資分が老朽化し、人口減少や車社会と相まって経営が難しくなった。本来は国を挙げて取り組む課題であるが、“先人の負の遺産”を経営の本質が分からない人達に委ねたことで顕在化した事件である。それと、長い年月をかけてつくられた誤った保全文化の影響も大きいとみる。
②⇒ この事件も基本的には①と同じである。インフラは、完成と同時に保全機能が伴い成立する。インフラ維持に必須な機能を手抜きするから生じる問題である。今何も起こっていないとして、保全費用を予算化しない国の上級者の問題である。
③⇒ 当初は、運転士が列車の遅れを取り戻すためにスピードを出し過ぎたヒューマンエラーとされていたが、分析する中で問題の本質が明確化した様だ。私がみた問題の本質は、次に示す通り品質管理の不備といえる。
 a.経営の目的が、売上高を目指す「生き残り策」に陥っていた
 b.タテ連携が悪く、現場の声を経営に反映させていない(事業の問題は全て現場で顕在化する理論を活か
   せていない)。また、ヨコ連携が悪く、個別最適化している
 c.運転士の依存度が高い仕事にも拘らず、人をモノのように管理していた
 d.人命にかかわる事業にも拘らず、信頼性設計が弱そうだ
 e.組織が大きすぎるためか、実質組織運営のマネジメントがなされていない
④⇒ トップ層が決算を粉飾した事件であるが、原因系は③同様に品質管理の不備と考えて良い。組織的問題ではなく、経営トップ層の独裁経営によるところが強そうだ。最後の砦となる「監査機能の排除」は独裁経営のあかしである。この経営者達は、著名な大学を出た人たちだが、有能なはずの人たちがグルになって起こした事件ということで悪質である。本件は、次の箇条書きにとどめる。
 a.長年に培われた非科学的経営者文化が存在していたこと(独裁経営)
 b.経営者層の品質管理無知(タテ連携の悪さ、監査機能の排除、独裁)
⑤⇒ この問題も高尚な話ではない。1969年頃、高浜発電所3号機4号機の立地に際して、地元民との面倒な交渉を高浜町の助役M氏に委ねてきた。原発事業はうまく運んだが、M氏に委ねた交渉事に不当な事案もあり、K電力はM氏に大きな借りをつくることになる。以降、K電力トップと沢山の役職者はM氏の手玉となり、金銭収賄と見返りの繰り返しが延々と続く。調査報告書によると、K電力の役職者はM氏との関係を断ち切ることができなかったという。それは、かつての不当な事案の暴露を恐れたからという。疑問に思うことは、沢山の多様な役職者が約30年間関わってきたにもかかわらず、なぜ内部告発が出現しなかったのかということ。 私見であるが、K電力におけるこの種の贈賄・収賄行為が交渉事の基本になっていたのかもしれない。つまり、役職者にしてみれば、普通のプロセスなので疑問を抱くことはあり得ないということかと思う(未検証)。
 
3.なぜこうなるのか
 保全問題は既に記載した通り、時間軸のマネジメント不良である。科学的に考えれば簡単なことであるが、トップ層の判断・決断に非科学的思考が入ると起こりやすい問題である。厄介なのはトップ層が関わる問題である。この種は、特別なことと見がちであるがそうではない。不都合な出来事に対し、煩悩が台頭して狂いが起こりやすくなるのは皆同じである。誤った行為は、一時的なストレスを解消しようとする心理的歪みによるものである。一見幼稚とも思える行為だが、よく考えると、トップ層はメンタリティーや現場に関わる教育や訓練はない。また、日本には下位層がトップ層を諭せる組織風土はない。そういったことが原因の根幹にあるとみる。
 具体的には次に示す(この内容を改善すれば済むことである)。
 1).経営の目的(経営理念)を忘れ、足元の儲け主義に走る
   解説 経営理念の多くは、社会のため、顧客のため、働く人々のためといった目的が示されている。経
   営は目的を果たすために行っている。目的以外のことをやってはいけないということである。1項の事件
   は、すべて目的を見誤った結果である。
 2).組織の役割、経営者の役目を理解できていない
   解説 誰か一人で経営しているのではない。トップ、ミドル、ボトムそれぞれに役割があり、皆が役割
   を果たして経営が成り立つ。また、お互いに支えあって初めて職務を遂行できる。トップも支えられて
   いるのだ。こういった基本を知らないトップが責任を感じすぎると権限を逸脱してしまう。従って、組織
   をマネジメントする必要がある。
 3).タテ連携がとれていない(現場情報を無視、苦言を呈する人材を排除)
   解説 全てのトラブルは組織活動の出来栄えを示す情報の一つであり、ほとんどがボトム層の「場」で
   顕在化する。その「場」に現れた問題を正していくと組織は強化される。普段、下位層はこの種の問題
   をつかんでいるので、彼らの意見や苦言は貴重な経営情報の一つである。よって、タテ連携をしてトップ
   層も共有化すると経営が楽になる。
      4).近視眼的経営が強い(その場の困りごとに対峙できず“消し去る経営”に走る)
   解説 人が報酬を望みすぎると、「今は何も起こっていない、今後も大丈夫であろう」と近視眼になり
   プロセスを誤る。邪念を起こさぬように絶対的な科学的管理思考を習慣にする必要がある。
      5).科学的管理の欠落(理論や事実を尊重せずに、その場の感情を優先する)
   解説 非科学的だと必ずやり直しが起こる。科学的だと、うまくいかなくとも修正で済む。さらに、その
   過程では人材が育成され技術が構築される。何よりも精神的負担が少ない。科学的管理が絶対に有利で
   ある。
      6).含み損の考え方が欠落(経営には含み損が伴い、含み損を改善して現状突破すること)
   解説 経営に未完成部があると、“トラブルやクレーム”などの含み損が顕在化する。顕在化した含み損を
   改善すると組織は進化する。その繰り返しが経営である。含み損は組織の未熟さであり、いちいち目く
   じらを立てる必要はない。いかなる組織も完成していないからである。
      7).経営を保証する検査、保全、監査はコストセンターではない
   解説 経営がちゃんとできているかどうかを測る機能を排除すると、経営は機能不全に至る。その理由を
   次に示す。検査・保全・監査機能が日々一生懸命にやればやるほど問題は起きなくなる。問題が起きない
   と誰もがコストセンターとみてしまう。そして手抜きが起きる。その数年後にまた問題が起こる。多くの
   企業はこの繰り返しをしている。目的を見誤ると、とんでもない行動に出てしまう。これも科学的に考え
   れば簡単なことである。
 
4.どうしたらよいのか
 組織運営の目的、つまり経営の目的である経営理念を遵守するしかない。それができない人は経営者として不適ということだ。1項の事例もすべて不適が当てはまる。
 私が勤務していた企業では、かつて経営難に陥った際に社員の首切りを考えたが、“何のための経営か”を深く考えることで踏みとどまったという。その後「経営理念」が作られた。
 深く考えて作られた経営理念には、経営の目的と行動指針が示されている。経営理念は思考が狂った時に回帰すると、思考を矯正してくれる“心のより所”である。

                                               以上