Blog25.社会問題はなぜ起こるのか(続編)

 Blog24では、“上位職者の誤魔化し”であるとか“現場情報が経営に反映されないために起こる不具合”など経営トップ層が直接間接的にかかわる事件について、問題を引き起こす訳と抑制法について触れた。
 今日は、組織運営において起こりやすい問題について簡単な抑制方法を説明する。
 なお、ここで説明する内容は、Blog5の「ヒエラルキーという構造の問題と対応法」でも触れているが、復習のために再度お伝えする。
 
1.組織は何のためにあるのか?
 一人で仕事をなし得ないとき、複数の人が役割を決め(分担して)成し遂げている。やる事が多くなり、また工程が複雑になると沢山の人で分担する。ちゃんと分担できるように課とか部というグループ(組織)を作って管理する。
 分担すると、意思疎通が悪くなり間違いが起こりやすくなるので、常に人同士、階層間、課・部同士の連携が必要となる。このことは、品質管理の創始者ジョセフ・M・ジュランが品質管理の必要性として最初に語っている。
 もっと分かり易く言うと、一人ですべての作業を行うならば、組織も連携も必要性はない。
 
2.なぜ組織のタテ連携が上手く取れないのか?
 企業や行政におけるヒエラルキー構造は、経営の目的を果たすための道具である。つまり、権限を委譲された人達が、目的を果たすために権限を行使して組織の成果を出すのだ。
 ところが、多くの組織体でそのような理解をしている組織人は少ない。その理由であるが、創業時の人達は自ら人を雇用し組織を作り上げていくので、雇用や組織の意味を理解している。その後、事業が成り立ち安定して時間が経過していくと、世代交代が起こり“雇用したこと”や“組織の意味”が薄れていくことがある――そのことが当たり前になり、意味が曖昧になっていく――。そして、創業時の考え方(創業の精神)を伝承する行為が止まる。組織活動の目的まで失うと運営は危険になる。組織文化はこうして崩れていくようだ。
 何年も組織の原点を失ったままにしておくと、組織は次に示す問題が起きやすくなる。
 一つ目は、ヒエラルキー構造を理解せぬままに、統制を目的に“便利な道具”として用いやすくなる。上の者にしたら居心地が良いので、自ら改善する者は少なくなる。
 二つ目は、ヒエラルキー構造におけるトップ・ミドル・ボトム層の立ち位置が異なることから生じる階層間断絶である。その関係を分かり易く表現すると、次の図(こちら)のようになる。
 トップ、ミドル、ボトムの視点が異なるので、どうしても価値観に違いが起こる。そして不幸にも階層間に断絶が起こりやすくなる。これがヒエラルキー構造の宿命でもある。
 ヒエラルキー構造の目的を意図せずに用いると、時として自分最適(部分最適)に走ってしまい連携が崩れていくことがある。時に上位層は権限を権力化する(できる)。それに対して下位層は上位層に対して“忖度”し“迎合”して対抗する(できる)。こうなると、正に軍隊の統制と同じ働きになり、下位層は常に“馬車馬”せざるを得なくなる。
 こういった現象を問題だと認識しても、見かけ上組織は動き事業は一定の成果を出しているので誰も止める行為はとらない。これが悪循環の構造であり、数年も経つと悪しき組織文化を形成してしまい後戻りが難しくなる。
 あらゆる組織が起こす社会問題の大半はこの様にして起きるとみている。
 
3.この様になり易い理由の一つ
 この様に陥る理由は、組織人がヒエラルキー構造の呪縛を受けることにあるとみる。
 呪縛は日本のタテ社会文化の影響を受けており、ムラの統制を崩さぬように①「上が偉い」という風土と②「村八分」という風土によって人々が暗黙のうちに管理されているのだ。しかも日本人は、この文化を無意識のうちに近代組織に持ち込んでいると言えよう。
 もう一つは、上記文化の影響を受けるためであろう、誰もが普段語れているというが実はほとんど“本音の語り”ができていない。こそこそ話になると誹謗中書も辞さない人達が、公の場では“場の空気”を読み取り表面的な語りにとどめてしまう。その結果、物事の本質までたどり着かないでいる。加えて、表面的な語りは信頼関係ができないという問題がある。 
 
4.どうすればよいのか?
 ここでは、極意といえる方法を二点お伝えする。
 一つ目は、「本音の語らい」をすること。自分達の立ち位置における困りごとを語ることで簡単に組織の課題をばらすことができる。我慢をせずに、不満を他責にしてぶちまけるとより、課題が鮮明になってくる。ここまでばらすと、課題は単純化され難しくなくなる。
 多くの組織で困りごとが解決しない訳は、広義の課題(沢山の問題と課題)が団子になっており、ほぐせないままにテーマ化するからである。
 加えて、本音の語りは相互の信頼関係が構築できる点で優れモノである。
 もう一つの驚きは、不満をぶちまけたところで、課題は必ず自分にも返ってくるのだ。そして、ばらした本人が主体的に取り組むのである。
 二つ目は、組織構造において自分の役割を正しく認識すること。職位(立ち位置)の役割であるが、契約思考が弱い日本の場合は、意外とボヤっとしたままに職位を与えられ、また受けている人が多い。本来、マネジャーは一つの専門職なので、訓練・体験させなければならないのだができていないケースが多い(これ以上の解説は控える)。
 次の図(こち)は、ボトム、ミドル、トップの役割を概念として示したものである。組織の役割が曖昧なケースは、これくらい明確に示しておかねばならないと考えてのことである。詳細は、「経営のための品質管理心得帳」第4章第1節で解説してある。
5.さいごに
 現在の売上高や利益の多くは、今の活動による成果物ではなく、数年前に種蒔きした活動の成果物である。今種蒔きした分は、数年後に成果が実る。
 ドイツのゲハルト・シュレーダー首相(1998-2005)が経済対策として打った構造改革が、その後を引き継いだアンゲラ・メルケル首相(2005-)の時代に花が咲いた。効果的な活動には長い時間を要し次の人の成果になるという良い事例である。
 従って、今の出来事に一喜一憂する必要はない。今うまくいっていないとしたら、その原因は数年前に担当していた先人のやり方に原因があるからである。一喜一憂するのではなく、先人の行為を客観的に振り返り、良いことは資産にし、また悪いことは是正すればよい。それが、仕事を受けた人の役割である。一喜一憂する行為は、自分のエネルギー消費が大きすぎて長続きしないので極力やらないほうが良い。
 これが「経営のための品質管理」の心得である。

                                               以上