Blog26.組織が失敗するとは、どういうことか

 毎日のように官民学の組織が起こす失敗でトラブルが起こり新聞紙上をにぎわしている。今日は、失敗の意味を正しく理解してもらうために、組織が起こす「失敗の本質」について解説したい。
 誰もが「失敗」の意味を正しく理解し、「失敗」をポジティブにとらえると、包み隠す行為は必要なくなるであろう。

 

<目次>
1.組織は必ず失敗する
2.失敗とは何か
3.失敗から組織が成長するには?
4.「含み損」経営
5.さいごに

 

 1.組織は必ず失敗する
 あらゆる組織には失敗がつきものである。なぜならば、組織はあらゆる面――働く人や技術そして運営仕組み――が不完全だからだ。
 組織人は、仕事の完璧さを目指して日々働いている。もし不都合(失敗)が起こったとしても、頑張って改善すると組織は進化し経営が成り立つ。組織が存続する限り、永遠に不都合(失敗)と改善を繰り返して進化していくのだ。
 しかし、そのように解釈して運営している経営人は極めて少ないであろう。
 
2.失敗とは何か?
 完璧でない組織には、不完全部が将来起こす損失が隠されている。それを「含み損」という。いずれは「含み損」が失敗(トラブル)という形で顕在化する。
 表現を変えると、組織に在籍する人が完璧でない――交渉事、技術、仕組み、マネジメント――ので失敗(トラブル)が起こると言い換えたほうが良いかもしれない。
 経営とは、組織員を育成し「含み損」を限りなく最小化する改善活動である。その結果、経営が維持でき、将来経営の目的を果たすことができる。
 ところが、経営者、組織人はそのように解釈している人は少ない。誰もがトラブルは良くないこととだと思い込みトラブルに遭遇すると当事者は悪いことをしたという後悔の念にかられる。顧客のクレーム案件に至っては大事になり、火消しに走ってしまう。火消しになると、恒久的な対策は打たれず、いずれ再発するという不幸な結末に陥ることになる。
 世の中の社会問題は、「失敗」の解釈を間違えるために泥沼にはまり込んでいるケースがほとんどである。失敗の本質を理解すると、そのようにはなり得ないはずだ。
 3.失敗から組織が成長するには?
 未完成な組織が成長するには、「含み損」を限りなく減らすしかない。そのために、組織人全員が日々起こるトラブルに向き合い科学的に対応していかねばならない。
 多くの組織人は、とかく利益をもたらすビジネスを優先し面倒なトラブルから目をそらす人が多い。しかし、トラブルを是正すること(「含み損」を減らすこと)で経営効率が高まり利益の源泉になることを忘れてはならない。
 社会問題化した官民学のトラブルの原因系を調べると、多くは失敗と対峙せずに包み隠しているケースがほとんどである。本来経営は、利潤を追求する活動なのだが、足元の利潤を追求し過ぎるあまり、長い時間軸での利潤――人材育成、技術構築、管理システムなどによるシナジー効果――を失っているようだ。
 次に、“どうすべきか”について説明したい。
 ① いかなる組織にも「含み損」が存在することを認識する:組織には、組織力に応じた「含み損」があることを組織員全員が認識する。例えば、「含み損」は“人材に関すること”、“技術に関すること”、“方針に関すること”、“連携に関すること”、“マネジメントに関すること”など経営に関わる全ての要素に存在する。そして、いかなる「含み損」が、いつ顕在化しても驚く必要はない。
 ② 「含み損」が顕在化したことを喜ぶ:「含み損」が顕在化した時は、「組織の弱点」が特段の活動をせずに見つかったことを喜ぶべきである。なぜならば、改善活動で発生確率の低い「含み損」を顕在化させるには膨大なコストがかかるからである。隠れている「含み損」が特段の投資をせずに掴めるメリットがあるということだ。
 ③ トラブルに向き合い「含み損」を撲滅する:「含み損」が顕在化した時には、組織方針の下で――計画的に投資して――優先的に「原因系の分析」をし、「仮説」「検証」「対策」を図ること。トラブル対策は、顧客クレーム対策と同じように丁寧に行うこと。
 ④ 「トラブル対応」も正規の仕事の一つだと認識する:不完全な組織が完全な組織を求めて経営する以上、「トラブル、失敗」への対応が必要になる。つまり、「トラブル、失敗」への対応は、学習して力をつけるための「先行投資」という考え方をすべきである。「先行投資」なので、「トラブル、失敗」への対応は正規の仕事の一つであり、方針として展開すべき案件である。
  いかなる職務もちゃんとこなせば、どうでも良い仕事は一つもないということである。
 
4.「含み損」経営
 このように考えると、「含み損」は、企業のあらゆるテーマに存在することが分かる。例えば、次に示す事例は良く遭遇する事象である。
a.「含み損」はリスクが大きいからゼロにして進む
b.「含み損」のリスクよりも機会損失が大きいとして、「含み損」を認めて進む
  もし、後者を選択し、不幸にも大型品質事故を起こしたとしても、事後の振り返りからきちっと投資して「技術(広義)・風土・人材」を仕上げれば、事後資産化されたことになり、長い目で事業経営が損なわれることはない。組織や企業の力量には限りがあるので、投資には事前も事後もありうる。いずれの投資であれ「技術(広義)・風土・人材」という資産化ができねば経営とはいえない、ということである。
 「含み損」のマネジメントは経営戦略なので、経営トップ層が決断しなければならない。決して、曖昧にして職責の低い方に委ねてはいけない。経営トップ層の主たる仕事だということを全組織員が共有化したほうが組織運営はうまくいく。
5.さいごに
 「失敗」を嫌がるのは、近視眼的にすぐに報酬(成果)を望む人間の性(さが)によるところが大きい。早く成果が欲しい、問題が起こればすぐに消し去りたいという強い願望は誰にでも起こるものである。成り行きで生きていると、時には性(さが)に負けてしまうことがある。
 そうならないようにするために、普段から次の三点を行う習慣を持つことである。
 一つ、常に「何のためにやっているのか」を示す「経営理念」に立ち返ること
 二つ、正しい答えを導いてくれる「科学的管理法」を用いること
 三つ、長い時間軸の物差しを持つこと――スパイクノイズに惑わされない――
 これが人間のマインドを正常化させる方法の一つである。詳細は「経営のための品質管理心得帳」に記載してある。

                                       以上