Blog30.【組織連携】五重塔はなぜ倒壊しないのか

 私のホームページの写真に五重塔を掲載してある。一見、宗教活動のように思われるかもしれないがそうではない。五重塔は大きな地震でも倒壊しない丈夫な構造物として掲載している。もう一つは、天高くそびえる立つ姿が頼もしいからである。
 今日は、五重塔がなぜ地震に倒壊しないのかについて、専門家の知見を用いながら考えていきたい。最後は、現代社会における組織運営のありたい姿に置き換えてみる。
 ちなみに、ホームページの写真左側に組織の「弱いヒエラルキー構造」を示しており、「強い五重塔」と対比し風刺したつもりである。
 
1.五重塔の耐震性歴史
 次に『五重塔はなぜ倒れないのか』上田篤著、新潮社1996415日四刷より、五重塔の歴史を引用(p.16~17)して歴史を振り返る。
 「歴史上、五重塔や三重塔といわれるものは全国に500ヶ所以上あり、その500ヶ所以上の木塔は、いずれも兵火、雷火、放火、失火などのよって焼亡と建て替えを繰り返しているので、実際に存在した木塔の数は、それより何倍か多かったが、地震で倒れたのはそのうち二塔しかない、と言われている」。
 1923年の関東大震災では五重塔の倒壊はなかったという。また、1995年の阪神淡路大震災では、兵庫県に存在する三重塔15の倒壊もなかったという。
2.五重塔の耐震性の強さ
 長年研究が重ねられた結果、耐震性が高い理由が明らかになった。
 これは、法隆寺の例として紹介されており、大きく3点ある。
  一つ、庇の張り出しが大きい
     構造:建物全幅の50%が庇で重い瓦屋根になっている。総重量は1,200トン。
     働き:「やじろべい」のような役割を果たし、バランスをとっているという。
  二つ、各層ごとに積み木のように重なっている
     構造:通し柱がなく、各層が固定されていない。
     働き:各層が互い違いに揺れることで衝撃を吸収する仕組みになっており、この
     動きはスネークダンスと呼ばれている。
  三つ、心柱は塔の重さを支えていない
     構造:五重塔の中央に心柱が貫通しており、相輪を支えているが周囲に接してい
     ない。江戸後期には、心柱を周囲の塔心から吊り下げられる構造が出現した。
     働き:心柱は強く揺れた場合、積み重なった各層がずれないようにする「かんぬ
     き」の役割をしているという説がある(確定ではない)。
 
3.組織運営に置き換えると
 五重塔は日本に伝来する前から何度も倒壊を繰り返して現在の姿になったのであろうが、それにしてもしつこく頑丈に仕上げた先人の挑戦には敬意を表したい。
 現在でも五重塔が建てられているのだが、各層の固定がないために建築基準法を満たさない理由で同じものを作るしか方法はないそうだ。五重塔の強靭さは、今もなお研究がなされているという。
 2項は仮説を含む知見であるが、その前提で私の勝手な思い込みを含めて「組織運営」に当てはめて考えてみる。
 五重塔の働きを見ていると、人間の組織運営のありたい姿に思えてならない。
 一つ目は、「重心が低く安定していること(やじろべい)」である。経営基盤がしっかりしているといえる。具体的には、「経営理念」の共有化である。重心が低いということは、「タテ連携」が図れ「現場視点」を持った経営がなされていると考えてもよい。
 二つ目は、各層は積み木のように重なっている、部位はがんじがらめの仕組みに縛られることなく、適度の遊びがあり衝撃を吸収している(スネークダンス)。この働きが組織として「タテとヨコ」の連携が取れているように見える。組織運営も適度の遊びが必要であり、人々が主体性を発揮するために必要な環境であろう。
 三つ目は、心柱の「かんぬき」役という説についてだが、ここでは仮説を前提に考えてみたい。もしそうであれば、機械的に強制力が働くので五重塔は信頼性が高いといえる。この心柱は、組織運営でいうと「経営理念と行動指針」のような役割といえよう。危機が迫った時にブレを矯正してくれる役目である。例えば、「経営理念」は、経営の目的と行動指針が示されており、困った時に回帰すると、必ず正しい方向に導き持続可能な成長をもたらしてくれるからである。
 ところが、人間が運営する組織には機械的な強制力は働きにくい。それは、多様な人々が経営理念を多様に解釈するので、組織内の解釈がぶれるからである。組織にとり絶対的な「経営理念」が、常に絶対的な運営がし難いということである。
 従って、経営理念を共有化できた組織のみが五重塔の心柱並みの働きができ、強靭になれるということだろう。それほど「経営理念の共有化」は難しいテーマである。難しいから、経営に苦労する組織や企業が多いということである。
 三つ目の心柱は仮説を前提に考えてみた。言いたいことは、先人が世代を超えて耐震性の強い五重塔を作り上げたこと。経営に置き換えると、経営理念の共有化が唯一持続可能な事業経営を支えることである。
 
4.さいごに
 五重塔のルーツは、原形がインドで発祥し、中国-朝鮮で形を変え、日本に伝来したという。また、多くの五重塔が現存するのは日本だけだのこと。ということは、日本人が「進取の気質」*1)で作り上げたということであろうか。*1)従来の慣習にとらわれることなく、積極的に新しい物事へ取り組もうとする気質。
 今回、耐震性に強い五重塔の技術を組織運営に置き換えてみたが、本心は組織運営もこうあって欲しいと願う気持ちがそうさせた。取って付けたような表現であるが、それほど五重塔から学べることが多いと思っている。
 今回は、余談をしてしまったかも知れない。

 
以上